TOPページへ    小説トップへ

Question
 あなたは、友達から「実は自分はユニコーンだった」と目の前で変身されました。
 さて、その後どうしますか?


 CASE 1 命の天秤


「……え、まさかぁ」
 私は信じられずに声を上げた。しかし、彼は、少し哀しげにふるふると首を横に振った。
「冗談でも何でもないんだ」
 彼の姿がまるで空間が歪んだように変わっていく。
「僕は、正真正銘、ユニコーンなんだ」
 おそるおそる、私は彼に手をのばす。彼も避けようとはしない。
「大丈夫、君は純粋な乙女だから」
 柔らかい毛並みの感触がした。

 彼とは、小さい頃からのつきあいだった。
 他の子と違い、どこか浮き世離れしていたとは感じていた。でも、彼は結局、私の友達以外の何者でもなかった。どんなに顔がきれいでも、それはあくまで友達という枠の中でしか考えてなかった。
 まさか、プロポーズされるなんて……
「姉ちゃん、顔、赤いぞ」
 弟に言われて、あわてて頬に手を当てる。明らかに顔は熱く火照っていた。
「へーんなの。じゃ、ちょっと遊びに行ってくる」
「んー、気をつけて」
 私は弟を見送った。両親が共働きで、私が必然的に弟の面倒を見ることになっている。年の離れたこの弟自身は好きだから、特に苦でもない。
(プロポーズ、どうしようかな)
 受ける以外には選択しは浮かばなかった。だけど、ふと、不安になる。
 自分が純粋な乙女でなくなったらどうなるんだろう?
 意外な落とし穴。人間はどうせ成長するにつれ、汚れていくから。
 そうなったら、私は彼に触れられないのだろうか? 人間の姿の彼にも。
 ユニコーンというのは純粋な乙女にしか触れられない聖獣らしい。その角が薬になるというので、狩られやすいと彼は言っていた。そういう意味では、向こうはまさに命がけの告白をしたわけだ。
(きっと、大丈夫よね?)
 そう自分に言い聞かせた時、けたたましいチャイムの音が鳴り響いた。
「なに? こんなせわしない……」
 ドアを開けた途端に聞こえてきたのは、弟の友達の泣き声だった。道路では、……弟が倒れていた。
 話を聞く限り、遊びに行った林で、何かを口にしてしまい、それがどうやら毒性の強いものだったらしい。めまいがする、と言っていたらいつの間にか……ということだった。
 弟に近寄る。息がひゅうひゅうとイヤな音を立てる。
 私は、自分の頭が妙に冷めていくのを感じた。
 弟の友達を帰し、救急車も呼ばずに、弟を家の中に運び込んだ私は、家の裏の物置に向かった。

「話したいことって……?」
 目の前には彼。下を向く私。
「その前に、もう一度、ユニコーンの姿を見せてくれる?」
 彼は不思議そうにしながら、それでもその身をゆっくりと変えた。
「私、あなたのプロポーズ受けるわ」
 にっこり笑う。ユニコーンの目がいっきに優しくなる。
「だから、うらまないでね」
 私は後ろ手に持っていたナタを思いっきり振り下ろした。
 たいした手応えもなく、角が地面に落ちる。不思議な顔の彼。
 そして、悲鳴を上げた彼は、倒れた。馬の姿のまま。
 私は、落ちた角を拾い、弟の元へ急いだ……。


Answer
 弟のために死んでもらいます。




 CASE 2 板挟み

 びっくりした。まさか、ユニコーンだったなんて。
 あの人がユニコーン? そりゃ、人間離れしてきれいな顔をしてるけど。
 でも、もしかしたら私に幸運を授けてくれるかもしれない。
 ……はっきり言って、ウチは貧乏だ。滅多に、医者にはかかれない。時々、ごはんを食べれない。
 でも、もしこのことがきっかけで、あの人が幸運をくれるなら……

 何もなかった。
 実はユニコーンである彼がそばにいても、何の幸運も転がっては来なかった。あの人も、人間と同じようにそばにいてくれ、時にお金稼ぎを手伝ってくれるだけだった。
 貧乏な生活は何も変わらない。むしろ、いっそうつらくなっていく。
 今日も金貸しにイヤミを言われた。もうそろそろ貸せなくなりますよ、て。いっそのこと身体でも売った方が稼げるんじゃないですか、って。その時は斡旋もしますよ。……つまりは自分の相手をしろ、と。
 どうしてそんなことを言われなきゃなんないんだろう。私が何をしたんだろう? 売春なんて、できやしない。
 日に日に生活は苦しくなって言った。お父さんの残した借金を母と私が小さな弟と妹を抱えた状態でどうやって返せるんだろう。今は、もう、利子すら返せない。
 そんな時、私の頭を金貸しの言葉がよぎった。
「いっそのこと身体でも売った方が稼げるんじゃないですか?」
 私でなければいいのか。
 珍しいユニコーンが、サーカスや見せ物小屋にいくらで売れるだろう。
 すぐそこの市の見せ物小屋じゃだめだ。あの人はそのきれいな顔が有名だから。――――だったら?
 私は今日、道で渡されたサーカスのチラシを受け取った。
 二年に一度、まわってくる。でも、一度も見に行ったことなどない。そんなことは無理だった。
「次に来るのは二年後? それだけの期間があれば十分よね?」
 私は怖い女になりつつあった。
―――――そして、私はサーカスの興業の最終日に、「世にも珍しいユニコーン」を売り渡した。

 私たち一家は、お父さんの借金を返し、別の町に家を買うことができた。それでも、予備費として蓄えは残っている。まだ、自分たちの生活で手一杯だが、弟や妹が大きくなれば、その悩みも少しずつ解消されていくだろう。
 ……そう、何事も起きなければ。

 一年後、それは謀ったように、私一人が留守番をしている時だった。
 ノックの音に、私はドアを開けた。
 そこには、あの人が立っていた。サーカスの下働きの女の子に、逃がしてもらったと話していた。そう、淡々と。表情がまるで読みとれない。
 何をしに来たのだろうか? 私をなじりに来たのだろうか? よりを戻すということは万が一にもないだろうけど。

 家に帰った家族が見たのは蹴り殺された私だった。そして、暴れ馬の仕業だということで話がついた。


Answer
 私と私の家族のためです。仕方ありません。




 CASE 3 愛情

 うれしかった。ユニコーンだからどうこう、ではなくて、この人が私にだけ秘密を打ち明けてくれたことが。
 私は貴族の娘。相手は厩番。身分こそ違うものの、私たちは仲良しだった。父や母は私たちの関係を快く思っていないようだったけど、そんなことはどうでも良かった。
 いざとなったら、家を捨てる覚悟はできていた。その時は一蓮托生だね、と言ってくれたこともある。
 私たちは多少困難でも、必ず、幸せになれる。そう信じていた。

 「危篤?」
 私は自分の血の気が引く音すら聞こえる気がした。家令に話を聞いたところ、父親の政敵が毒を盛ったらしい。
 標的は、私の弟。この家の跡継ぎ。
 医者が呼ばれ、様々な治療法が試みられた。だが、弟は苦しげな息で、どんどん痩せこけていく。
 私は毎日神様に祈った。弟が一刻も早く回復するように、と。
 そして、禁断の方法を思いついてしまった。
 ユニコーンの角はどんな毒の解毒剤にもなるという。……ただ、角を折られたユニコーンは死んでしまう、
 私は、泣きすぎて頭痛を抱えながら、彼の元に行った。手にはナイフが握られている。
 彼は馬の世話をしていた。
 後ろから刺したら死ぬだろうか、死んだらユニコーンの姿になるだろうか。彼が死んだら私は……
 ぽろぽろと涙がこぼれる。そして、彼は気づいてしまった。私の存在。ナイフの存在に。
「……弟くんのことで、いつか来るかもしれないと、思っていたよ」
 澄んだ声。彼はじっと私を見つめる。
 私は首を横に振った。できない。弟のためとはいえ、彼を殺す何てできないと泣きじゃくった。
「方法は……あるよ」
 彼はそう答えて、ユニコーンの姿になった。
「……戻って来る、それまで弟くんの近くで待っていて」
 彼は私にそう言うと、颯爽とどこかへ駆けて行った。
 私は、疲れ切った頭で、ふらふらと弟の部屋へ向かった。
 部屋に、もう医者はいない。その全員がさじを投げた。このまま、弟は緩慢な苦しい死を迎えるのだろう。諦めが心を支配していた。
 額の汗を拭こうと、手拭いをあてると、前髪がごそりと抜け落ちた。私は悲鳴を抑え、よろよろと壁によりかかった。
 どうにかなってしまいそうだ。
 その時、彼が来た。後ろには私の両親。二人とも藁にもすがる思いで、彼を部屋に通したのだと後で気づいた。厩番が本宅に入ることは固く禁じられていたから。
「僕の母さんの……」
 彼は私に耳打ちをした。
 そして、奇跡は起きた。

 弟は助かり、彼は褒美をもらった。私という褒美を。私の両親とは事前に交渉済みだったようだ。
 私と彼は、人目を避けるように、別荘で二人っきりで暮らしている。


Answer
 私はやっぱり彼の方が大切でした。




TOPページへ    小説トップへ