第1話.ハンターというお仕事1.美少女怪盗(自称)の日常風景「ヤードの皆さーん。おっつかれさまーっ」無駄にきゃぴきゃぴした声が、星空の下で脳天気に響いた。 とある金持ちの邸の塀で手を振る女のシルエットが、月明かりに照らし上げられている。 否、シルエットではない。 彼女は黒装束に黒頭巾、黒いゴーグルという黒尽くめの衣装に身を包んでいるのだ。ボディラインを露わにするそのデザインの中で、腰にある黒い革のポーチだけが目立っていた。 「降りてこんかい、このアホンダラーっ!」 塀の下からダミ声が飛んでくると、女は「いやん」と艶っぽく声をあげた。 ダミ声を張り上げた男の後ろには、一様に紺色の制服を着た男達が身構えている。だが、かなり走ったのだろう、彼らの息は荒い。 「やだ、もう。アンダースンさんったら、真っ赤になって怒っちゃって……かわいいんだから」 何やらジャラジャラと音の鳴る袋を左に持った女は、腰に下げたポーチから一枚のカードを取り出した。それは月光を映して銀色に光っている。 「あんまり怒るとハゲちゃうわよ?」 女の右手が素早く動くと、アンダースンの帽子にタン、とヒットした。 「それじゃ、そーゆーことで」 アンダースンが投げつけられたカードを拾い上げるより早く、その女の姿はかき消える。 『この仕事を区切りにリフレッシュ休暇を頂きます。 ヤードの皆さんも三ヶ月間ちゃんと休んでね。 怪盗エレーラ・ド・シン』
「なめとるんか、おんどれはーっ!」 アンダースンの絶叫が閑静な高級住宅街にこだました。 ―――怪盗エレーラ・ド・シンは悪どく稼ぐ悪党を狙ってその財産や悪事の証拠を盗み出す、庶民のヒーローである。彼女は大胆不敵にも予告状を出した上で彼らの邸に忍び込み、そのことごとくを成功させていた。 彼女について分かっていることは、ナイスバデーな女であることだけ。その素性・目的はいまだ不明。 ただし、この日を境に、月に2回ぐらいの頻度で届けられた予告状がぷっつりと途絶えた。 | |
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