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第1話.ハンターというお仕事

 7.戦い終わって、金回収


「んもぉ、どぉして私のところに来てくれないのぉ~?」
 ベッドの上で、ディアナは自分の枕をぼすぼすと殴りつけていた。
 あの後、困り顔の執事から二万イギンずつ渡され、すごすごと帰って来て、その日はさすがに疲れもあって二人ともすぐに寝入ってしまったのだった。
 翌朝、といっても昼に近いが、起きたディアナはこうして枕に八つ当たりを始めたのである。
「姉さん、こればっかりは運の問題だし……」
「なんでフェリオの方に行くのよぉ~」
 弟の言に耳も貸さず、ばすんばすんと枕を寝台に叩きつける。
「とりあえず、昼飯でも食べに下りよう?」
「ん~」
 残念ながら、二人の向かった宿屋一階の食堂は、人でごった返していた。
「混んでるぅ……」
「どっか外に食べに行く?」
 二人が階段を下りると、その姿を見つけた何者かが近づいてきた。
「どうも、ディアナさん、リジィさん」
 にっこりと笑顔で呼びかけてきたのは紙束を抱えたダファー・コンヴェルだった。昨日と違い、正義新聞のロゴの入った上着を着ている。
「これ、昨日の謝礼です」
 ディアナには封筒を、リジィには新聞を。
「はぁい、ごくろうさまぁ~」
 斜めにかけた茶色のポーチから、ディアナがコインを取り出して渡すと、そのまま彼は店の外へと出て行った。
「正義新聞か……。あ、これは――――」
 リジィが目にした一面記事には、昨晩エレーラが予告状通りにスタールビーを盗ったこと、そして町長とルグラン王室の宰相が結託して行った国からの鉱山援助金の使い込み、その用途など、全ての悪事が暴き立てられている。
「姉さん、謝礼って、もしかして……」
「昨日ぉ、先に巡回に行くフリしてぇ、いろいろと、あさってみたのぉ」
 あ、一万イギンも入ってるぅ、と喜ぶ姉にリジィは言葉を失った。
「そうそう。もう一個の報酬をぉ、取りに行かなきゃねぇ」
「もう一個、って……まだあるの?」
 リジィが諦め顔で聞き返した。


 どどーんと目の前にそびえるのは華美ではないが清楚な気品をかもし出している門だった。
「姉さん。僕の記憶違いでなければ、ルグラン王室の別荘……」
「ピぃンポぉ~ン、大当たりぃ~」
 呼び鈴を鳴らすと、お屋敷の方から一人の活発な感じの女の子が走ってきた。
「ディアナ! 今度のことは本当にすまなかった。ありがとう、恩に着る」
 ボーイッシュな少女はお礼を言った相手の隣に立つリジィに気づいて視線を向けた。
「こっちが弟か。確かにそっくりだな」
「あ、どうも、初めまして」
 リジィのアイサツに男物の乗馬服に身を包んだ少女はにっこりと笑みを返す。
「本当に申し訳ないが、知っての通りいろいろごたごたしているんだ。こんなものでお礼を済ませてすまないな」
 ポケットから封筒を取り出し、少女がディアナに渡す。
「今度、これが落ち着いたら、また茶でも飲もう! それでは、またな!」
 少女は再び屋敷の方へ走って行った。
「……二〇万イギンかぁ。ふとっぱらぁ」
「姉さん、それはいったいなんの……」
 ディアナは、忘れてたとばかりに手を打ち、説明した。
 昨日の昼頃、ランチをどの店で食べようか迷っていたディアナは、彼女に会っておいしい店を教えてもらった。二人でテーブルを挟んで談笑していたところ、彼女がルグラン王室の王女であることと、ディアナがエレーラを追いかけるハンターであることをお互いに知り合い、彼女がエレーラを捕まえないで欲しいと頼んできたのだ。
 王である父親が病気で伏せっている間にやりたい放題の宰相をこらしめるため、宰相の悪事の証拠を見つけるために、エレーラ・ド・シンに渡りをつけたということだった。
「それでぇ、エレーラを捕まえても捕まえなくてもぉ、お金が入ると思ってぇ……」
「……姉さん、それは詐欺って言わない?」
「言わないよぉ、ただ保険かけただけだもん」
 リジィはこの姉にはどうやってもかなわないと、がっくり肩を落とした。
「これでぇ、全部合わせてぇ……二五万イギン!」
 ちゃんと儲けたことに無邪気に喜ぶ姉を見て、リジィはふと思い出した。
(そういえば、エレーラも金色のふわふわした巻き毛だったよね)
「リジィちゃん。へこんでるフェリオ誘って~、今夜は残念会やろうねぇ?」
「げ、あいつも誘うのかよ」
 憎い名前に舌打ちしつつも、その名前に昨晩の二人の戦闘の高度さを思い浮かべ、リジィは目の前の姉を見つめた。
 弟の真剣な眼差しにきょとんとしている姉は、首をかしげて、どうしたのぉ?と尋ねる。
「姉さん。僕はやっぱりまだまだなのかな」
「んん~? どうしたのぉ? まさかエレーラに何かされた~? それともぉ、フェリオにぃ~?」
 ディアナは両手で弟の頬を包み込むように挟むと、自分と同じ色の目を覗きこんだ。
「困ったことがあったら言うのよぉ? お姉ちゃんが何とかしてあげるからねぇ~?」
 にっこりほほえむと、そのままきゅっとリジィの頭を抱きしめる。
「うん、ごめんね。大丈夫だから。変なこと言ってごめん」
「いいのぉ。だってリジィちゃんだもん~」
(昨晩、ボーヤ、ボーヤ言い過ぎたかしら?)
 ディアナはこっそり反省しつつ、「でも、とりあえず、昨日のお店にランチ食べに行こうねぇ~」と声を出した。

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