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第6話.戦士ではなく怪盗として

 1.大人の虚勢/彼らの葛藤


「なんで、お前しか戻ってこないんだよ」
 ひとしきり事情を聞いた後、その男は不機嫌そうに呟いた。
「そう言われると、悪者にでもなったような気分になるから不思議ですね」
 男と対峙した彼は、無意識に自分の腹に手をやった。目の前の男にきつく縛られた包帯には、じわり、と血がにじみだしている。
「さっきも報告しましたけど、ディアナさんの格好をしていたわたしを貫いてエレーラ、いえ、ディアナさんに矢が届いたんです。わたしが戻って来られて、あの人が戻って来れない筈がないと思いますけど」
「んなこたぁ、分かってんだよ」
 男はちらり、と彼の包帯に目をやった。
「俺が心配してんのは、あいつが先走ることだけだ」
「……そうですね。あの人は意外と短気ですからね。貫かれたときになんて言ったと思います? ―――あの甘ったれボンボンが! ですよ」
「そりゃやべぇな。あぁ、そうだ。それで証拠品と竪琴はどうしたよ?」
「あぁ、忘れてました」
「まさか一緒にドボンとか言わねぇよな」
「はい、それは大丈夫です。ただ、ちょっと取りに行かないといけないんですよね」
「あぁ?」
 ガラも悪く聞き返す男に、彼は軽いため息を返した。それはこれからの苦労を思ったものか、それとも彼女の読みに敬意を示したものか。
「ディアナさんはすごいですよね。今回は悪い予感がするからと、竪琴と証拠を別ルートで持ち出すことにしたんです」
「へぇ?」
「ですが、あんなことになってしまって、別ルートはたぶん動かないと思います。……どちらにしても、もう一度あそこに潜入しないといけませんね」
「そーか。……ディーと一緒に行動していた2人はどう出るかな」
「リジィさんは、どこまでうちの体制を知っているんでしょうね。もしかしたら、社長のところまで辿り着くかもしれません」
「あー……。めんどくせぇな」
 男がガリガリと頭を掻く。
「まぁ、いーや。とりあえずお前は昼頃まで寝とけ。お前はケガしてない筈なんだからな、ある程度動けるようになってもらわねぇと」
「はいはい。まったく、人遣いが荒いですよ」
「うるせー。そーゆーのはきっちり動いてから言えよー」
「……そうでした。これだけは報告していかないといけませんでした」
 そう前置きした彼の報告に、男は真剣な眼差しで頷いた。
「驚かないんですね」
「あー、もしかしたら、とは思ってたからな」
「そうですか。予想の範疇でしたか」
 まぁな、と答えた男は、彼を休ませるために部屋から追い出した。
 バタン、とドアが閉まり、部屋の中には男一人だけとなる。
「……ディー」
 彼は、小さく呟いた。


 スリフリカタリ亭の一階、食堂の隅のテーブルは険悪なムードが漂っていた。
「どうせ、フェリオはエレーラの方が残念なんだろうね」
「そうじゃねぇだろーが。あのまま下流に行っても何かが見つかる可能性はないって言っただろ」
「可能性がどうとかじゃない。見つけるんだよ!」
 顔の整った男が金髪を振り乱してテーブルを叩いた。対峙する黒髪の筋肉質な男は、チッと舌打ちで答える。
「冷静になれよ。あれだけの深手だったんだ。岸に上がってたら何か痕跡が残ってるもんだろ? それらしいのはいくつかあったんだ、すぐ戻ってくるさ」
「楽観的過ぎるよ。エレーラが自分の痕跡を悟られないために、複数箇所で足跡をつけた可能性もあるって最初に言ったのはフェリオの方だろ!」
「そうだよ。事前に考えられる事態は全部出し尽くすのがオレのやり方だ。―――それが楽観的な希望であろうが、悲観的な絶望であろうがな」
 フェリオはリジィを見据えた。
「まだ情報が少ねぇ。自分の足で探すのもいいが、昨日あんだけこの店で注目されたんだ。それにあの格好。何かあれば耳に入ってくる筈だろうが」
「……それは、その通りかもしれない。だからってここで悶々と待ってるわけにも」
 リジィは突然言葉を切った。そして何かを思い出そうとするかのように虚空を見つめる。
「なんだ?」
「そうか、もっと情報が集まりやすい所があった」
 ガタン、と立ちあがると、そのまま出口へと向かう。
「おい、どこに行くんだよ」
「とりあえず、ギルドに行ってみるよ」
「ここのギルドはほとんど役立たずだろ?」
「……そうかもしれない。でも、行かないと」
 隈を作った目でふらりと歩き出すリジィを、「ち、しゃぁねぇか」とフェリオが追いかけた。


「……そうですか」
「ごめんなぁ。お姉さんが川に落ちたって話も今聞いたぐらいやから」
 傍目にもがっくりと肩を落とすリジィに、本当に申し訳なさそうなギルド店主。
(やっぱりな)
 フェリオは予想通りの展開に、のび始めた無精髭を撫でながら納得した。
「じゃぁ、今、正義新聞がどこに来ているか分かりますか?」
「正義新聞? あぁ、出張所が移動するとは聞いたことがあるけど、残念ながら知らんわ」
 移動する出張所を初耳のフェリオがかすかに瞠目する。
「そうですか。―――それじゃ、この町で年配の人が集まっているような場所ってありますか?」
「はい?」
「は?」
 リジィの質問に店主とフェリオが同時に聞き返した。
「ですから、年配の方々が集まるところです。公園でも、誰かの家でも、どっかありませんか?」
「あぁ、そういうことなら、川を渡った西地区に休憩所付きの公園があんねん。それでええのん?」
「はい、ありがとうございます」
 ぺこり、とお辞儀するなりリジィはくるりと背を向けた。
「おい、待てよ」
慌てて追うフェリオなどまるで眼中にない。

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