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第2話.山賊ポルカ

 3.雑魚だから狂想曲


 ディアナが丁度、腕を解放された時、フェリオとリジィは見張りを片付け、アジトの良く見える位置に隠れていた。アジトは打ち捨てられた狩小屋を改造したもののようだが、どうにもセンスの悪いマークが書かれていた。二人は円陣からアジトの狩小屋を挟んで影になるような木に登って一連の流れを傍観していたのだ。
「じゃ、周りから崩してくか」
 フェリオはリジィに言い聞かせるように呟いた。
「僕は姉さんが危ないと思ったら出て行くからな」
 しぶしぶ答えるリジィ。チームを組む時はランクの高いハンターに従えと、姉から何度も言い聞かされていた。ただし、自分で判断することも大切だとも言われた。
「そんなこたぁ、ないだろうけどな。……お前は向こうから切り崩せ。できるだけ、他のヤツの目に止まらないようにな」
「……分かってるさ」
 返事を聞きつつ、フェリオが黄色いリボンを木の枝にくくりつけた。さきほどリジィからぶんどったディアナの持ち物だ。
(こんな目印つけなくとも、気づくたぁ思うがな)
 自分と同じBランクハンターなら。
 だが、きゃいきゃいと悲鳴をあげて円陣の中を逃げまわる本人を見ると、多少不安を感じる。
「よし、行くぜ」
 リジィは無言で頷いて、指示された通りに向こう側にまわった。


「いや~ん! こっちにぃ、来ないでぇ~っ!」
 間の抜けた悲鳴を上げながらディアナは人間の壁の中を所狭しと逃げまわっていた。
「このっ、さっきからちょこまかとっ!」
 追いまわす頭目が手をブンブンと振りまわすが、いっこうに捕まえられない。
「おいおい、おかしらぁ。いつまで遊んでるんだよ」
「早いトコ捕まえて、こっちも楽しませてくれよ~」
 ぎゃはははは、と笑う盗賊達に頭目の目の色が変わる。ぴたり、とその足を止め、ぐいっと腕まくりをした。
「よーし! 本腰入れてヤってやる!」
 今までよりも数段早いスピードで頭目がディアナに向かって地面を蹴った。
「おかしら、なに娘っ子相手に本気出してんスか~?」
「大人げねぇなぁ」
 飛び交うヤジに「気にすんな!」と罵声を浴びせながら、ディアナを捕まえようとがむしゃらに走る頭目。センセイがその様子に、疑念を抱いた。ディアナがまるで、常に間一髪の所で頭目の手を避けるように努めているように見えたのだ。
「やだぁ、恐い顔ぉ~」
 捕まりそうな所を拳一個ぐらいの幅でかわす。
「るっせぇ! とっとと捕まりやがれ!」
 逃げるディアナの目に黄色いリボンが止まった。腕を掴まれていた時はなかったハズ、と気づく。
(と、いうことはぁ?)
 悲鳴を上げながら、自分を取り囲む円陣を見まわした。ざっと人数を数える。さっきは二重になっていた円陣は一重ちょっとになっている、二人がこっそりと倒したのだろうが、これではそろそろ気づかれてしまうだろう。
(どうしたらぁ、いいかなぁ?)
 考えていたところに、足をひっかけられ、そのまま倒れ込んでしまった。
「いったぁ~い!」
 起きあがろうとした所に、頭目に乗っかられるディアナ。
「ありがとよ、センセイ!」
「なに、礼はいらない。飽きて来たところだったからな」
 自分の心配は杞憂に過ぎなかったか、とセンセイが心の中で呟く。
「さぁって、これからが、本当のショータイムだぜぇ?」
 自分の上から声を聞きながら、ディアナはざっと周りを見まわした。十数人に減っている盗賊が自分の周りに寄ってくるのが見える。そろそろ、頃合だと判断することにした。どちらにしても、このままヤられるような真似はしたくない。
「リジィちゃん、そこのセンセイよろしくぅ!」
 叫ぶと同時に顔の前にあった頭目の足を、袖の下から取りだしたナイフで切りつけた。
 突然、ひざに激痛を感じた頭目が「ぬがぁ!」と叫んで飛び下がる。
 その隙に下から抜け出したディアナが頭目の頭を踏み台にして取り囲む盗賊達の円の外側に飛び出した!
「あんだぁっ?」
 盗賊の一人が間抜けな声を上げると同時にフェリオがその円の中に割り込む。同時に反対側から襲撃したリジィは一直線にセンセイに斬りつけた!
「まさかっ! あいつの仲間かっ?」
 慌てて自分の剣を取りだしたセンセイがリジィのロングソードを受け流し、距離をとる。周囲に盗賊達がいては、足手まといになるだけだ。
「フェリオっ! ちょっと伏せてぇ~!」
 円の中心にいたフェリオは慌てて伏せる。それを確認するより前にディアナはスカートをまくり、太ももにつけた皮バンドから投げナイフを5、6本取りだし、投げつけた。
「ぐはっ」
「ぎゃひん」
「ってぇ!」
 様々な悲鳴の上がる中、バタバタと倒れていく盗賊達。
「おいおい、ヤバいもん塗ってんじゃねぇだろうな」
 残った盗賊を相手にしながらフェリオは呟いた。
「そんなことぉ、ないわよぉ?」
 倒した盗賊からクックリを奪ったディアナがその柄で一人を昏倒させる。その動きには口調と違って無駄がない。
「こりゃ、早く終わるな」
「あぁ~、フェリオぉ、リジィちゃんから取ろうとしてるでしょ~」
 倒れ伏す盗賊の中、立っているのはディアナとフェリオの二人だけになってしまった。そこからいくぶんか離れたところで、リジィとランクCのセンセイが戦っている。
「せっかくぅ、リジィちゃんの活躍の場なんだからぁ。……そんなことよりもぉ、縛るか手当てするかしなくっちゃ~」
 手近な所に転がっていた頭目の首根っこを掴み、ディアナがずるずると引きずった。
「リジィちゃんのぉ、荷物はぁ?」
「俺のと一緒にそこの小屋の裏手に置いてあるぜ。ロープもな」
「ロープぅ、買い足しておいてよかったわぁ~」  やはり重かったらしく、頭目をぽいっと放って、ディアナは早足で小屋の方へ行く。
 やれやれ、と見送ったフェリオは気絶している盗賊や、呻き声をあげている雑魚を一箇所に集め始めた。


キィン!
「やるじゃないか」
「……おしゃべりが過ぎるぞ」
 リジィのロングソードが、センセイのシャムシールが、ギリギリとせめぎあう。
「おとなしく、捕まっておけ!」
 ぐいっとリジィが押すと同時に、センセイが自分の剣を引いてかわす。体勢を崩したリジィが二、三歩たたらを踏んだ、その隙にセンセイの剣が唸りをあげた。
「じょうだんっ!」
 こらえることもせず、そのまま前に転がったリジィの後ろでセンセイのシャムシールが地面を斬りつけた。
 リジィが体勢を再び立て直すのと、センセイがシャムシールを振り上げたのはほぼ同時、お互いが攻めあぐねて睨み合う。
「おい、ちんたらやってんじゃねぇぞ」
 そこにヤジを飛ばしたのはフェリオだった。既に足元には両手足を縛られた盗賊がごろごろと転がっている。ディアナは昼間出会ったハンターの応急処置の方に回ったようだ。
「分かってるさっ!」
 もはや邪魔者が入らないと分かったリジィがにやりと笑う。
「ふん、逃げる気もおこらん。お前一人ぐらいは殺しておかねばな」
 センセイが両手で持っていたロングソードを右手に持ち変えた。
(何か、仕掛けてくる!)
 リジィは自分が動くか相手の動きを待つか、しばし、迷う。だが、このまま長引くようであればフェリオかディアナが介入してくる恐れもあった。それだけは避けたい。男のメンツとして。
(右に持ち変えたということは……左に気をつければ―――)
 腹をくくり、リジィが地を蹴る。
「かかったな!」
 センセイの声とほぼ同時に、リジィの右足に狩に使うトラバサミが食い込んだ!
「っ!」
 足をとられたリジィがその場にひざをつく。
「もらったぁっ!」
 リジィの首元にシャムシールが振りおろされ―――
「甘いっての」
 トラバサミで動きを封じられているはずのリジィが真横に避ける。空を切った剣はまっすぐにトラバサミにぶちあたって、こわんっと音をたてる。
「よいしょっと!」
 体勢を崩したセンセイの上にリジィが乗っかり、その右手を踏みつける。そして、そのままシャムシールを取り上げた。
「さって、おとなしくお縄についときなよ」
 センセイの手を踏みつけた右足は、靴下だけしか履いていなかった。

<<2-2.その姉、まだ不機嫌につき >>2-4.そして月夜の下で


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