37.それは、味見だったのです。「お先に失礼しまーす。……って、オウラン、なんか疲れた顔してるね」 「……はぁ、お疲れさまです。カショウ」 着替えて更衣室を出たところで、元ヒーロー今ヒールの同僚に出くわしました。 うーん、そんなに表に出てましたかね。 疲れたというよりは、妙な気苦労を抱えてしまった、という方が正しいのです。 昨日の「一緒に文化祭回りませんか」発言に、まさかあんな影響があるとは思いませんでした……。 ![]() 「ミオっちー♪」 登校直後に、弾むような調子で挨拶してくれたのは玉名さんでした。 「おはようございます、玉名さん。今日の英文法のプリントなのですが、分からない問題があったので聞いてもいいですか?」 「えー、そんなんイイってばさー。それより、昨日はあれからどうだったワケ?」 「昨日、ですか?」 私は首を傾げました。 玉名さんがテンションを上げるようなこと、何かありましたっけ? テレビ番組の話だとしたら、残念ながらテレビを持っていない私は一方的に話を聞くことしかできないのですけど。 「とぼけないでってば、羅刹のコト♪ 文化祭、どーゆートコ回るとかさ、そんな話した?」 「……いえ、別に? あ、昨日は助け船ありがとうございました。ちょっとあの場面で佐多くんに何を言ったら正解なのか分からなかったので、助かりました」 「……あれ、ミオ?」 「はい」 「本当に羅刹とラブな方向で何もなかったーとか言わないよね?」 「あの、ですから玉名さんの期待するようなことは何もないって、昨日も確か言いましたよね?」 途端に、玉名さんが私の頬を両手でがしっと挟んで迫ってきました。ちょ、近い近い! 吐息が当たってます! 妙にミント系の香りがするのですけど、ガムでも噛んでたんですか? 「マジありえないし! アタシが書いたセリフただ言っただけってワケ?」 そ、その通りなのですが、頷いたらさらに怒られてしまいそうで怖いのです。バイトで何度も寸劇をこなしていますので、舞台袖からの指示にはつい従ってしまう習性がついてしまっているのです。 「ミオ、よーく聞いて」 「は、はい」 「ミオが羅刹に言ったセリフは、学園祭でデートしようってお誘いだからね?」 「……」 言われてみれば、確かにそう解釈できます。 いや、でもですよ? 羅刹とデートって、字面からしておかしくありませんか? 「玉名ぁ、お前の指示だったのかよ」 「うわぁ、本当に羅刹当日いるのかよー」 「勘弁してくれよー」 私たちの会話を聞いていたクラスメイトから、非難の声が上がりました。 「そこまで言うことないと思うの。一応、らせ、佐多くんだってクラスの一員だよ?」 「ちげーよ、高森。売り上げに関わるって言ってんだよ。売り上げすなわち打ち上げ費用! 学園祭って言ったら、打ち上げだろ、打ち上げ。何のために学年で二枠しかない飲食店勝ち取ったんだと思ってんだよ」 「だからって、邪魔もの扱いする必要ないでしょ」 「じゃぁ、あの顔でクラスに陣取られてみろよ。客が逃げるだろ」 「噛みつきませんって札つけておけば―――」 「それこそ羅刹に殺されるだろ。むしろ狂犬注意って入り口に貼るレベルだし」 高森さんと諏訪くんの言い合いをきっかけに、あちこちで意見が飛び交いました。 話の中心にいたはずの私は、呆然とその様子を眺めることしかできません。まさかここまで話が大きくなるとは思わなかったのですから。 「ちょっと待とうよ。みんな話の方向がズレて行ってる。須屋さんの誘いに佐多くんが頷いたのは事実なんだし、佐多くんがクラスの一員ってことも事実なんだよ」 凛とよく通る声は、女バレのブロッカーでもある朝地さんのものでした。冷静な声に、ざわついていたクラスが落ち着きを取り戻しました。 うーん、朝地さん。佐多くんの鑑賞に乗り気だとは匂わせない様子なのは流石です。もちろん私はお口にチャックでバラしませんよ。 「考えるべきなのは、佐多くんをどう扱うか、ってことだよね。確かに諏訪の言う通り、店内に居てもらうと客足が鈍る可能性はある、でも、誰だって向き不向きがあると思う。それなら、佐多くんが何に適してるのか考えるのが大事なんじゃないかな」 うぅ、朝地さんの言っていることが、真っ当過ぎて男前です。恩田くんが「侠気のブロッカー」なんて二つ名を付ける気持ちが分かるような気がします。ボブカットで背も高く、中性的な魅力を持つ朝地さんは、クラスの誰よりも男らしく見えました。 騒ぎが落ち着いたところで、朝のHRが始まってしまったので、私の知る限りでは、そこまででした。でも、その後も文化祭実行委員の高森さんと諏訪くん、たまに他のクラスメイトが顔を寄せ合って何かを話しているようでした。 私が発端なので、加わろうともしたのですが、方針が決まったら説得を頼むから、と話し合いからは外されてしまったのです。 うーん、本当に私の役どころは「羅刹係」になってしまったのですね。 ![]() と、まぁ、そんなことがあったので、私は学校を出る頃には、主に無用な気遣いのせいで疲れてしまっていたのです。 一応、フロアに出て「オウラン」の仮面を被っている時は、ちゃんとしていたと思うのですが、さすがに終わる頃には気も抜けてしまっていたのですね。 「えぇと、そこまで顔に出てましたか?」 「うーんと、なんかね、肩がいつもより落ちてるかなって」 「ちょっと、昼間疲れることがあっただけなのです。大したことではないので心配しないでください……」 「うーん、大丈夫じゃなさそうなんだけどね」 ちょっといいかな、と階段へ向かう私たちを、呼び止める声がありました。 「店長?」 「二人とも時間ある?」 私たちは顔を見合わせました。 私は帰った後にやることもありませんでしたので、とりあえず頷きます。カショウも同じようで「大丈夫ですけど」と答えました。 「ちょっと新メニューの試食をしてもらえないかな、と思って」 「新メニューですか?」 神殿という名の事務室へ足を向けた私たちを待っていたのは、数少ない正社員でもあり、キッチン担当のJさんです。お約束通り、本名は知りません。この職場で本名を晒しているのは店長だけですから。 「これ、コーヒーっすか?」 「うん、是非飲んでみて感想を聞かせてくれる?」 にこにことカショウの質問に答えを返さずに、微笑みという圧力をかけてくるJさんですが、まるで熊さんみたいに大柄ながら、柔らかい雰囲気なのでバイトの間でもこっそり人気がある人です。失敗した人に対しても怒鳴ることはせずに、諭すように説教をしてくるので、「こんないい人に迷惑はかけられない」とばかりに皆は頑張るのです。 「えと、味と香りと見た目の純粋な感想を言えば良いのですよね?」 「そう。変にお世辞とか混ぜなくていいから、飲んでみて」 私はじーっと湯気を立てるその液体を見つめました。コーヒーのように見えるのですけど、香りがちょっと違うような気がします。いつもとは違う豆を使っているのでしょうか。 ふぅふぅと吹いて表面を少し冷ますと、ずずっと口に含み、舌の上で転がすようにして味を確かめる……のですが。 「っんだ、こりゃ」 「あぁ、ありがとう。シュバリエ。いや、今はカショウだっけ。その言葉が聞きたかったんだよ」 「Jさん。なんすか、これ?」 「うん。……エリムーはどうだい?」 私はごくり、とそれを嚥下しました。まだ温かい液体がゆっくりと食道を通って胃の腑に流れ落ちるのを感じながら、口を開きました。 「コーヒー、に似ているんですけど、全くの別物に感じます。苦みもあるんですけど、クドい甘みが残ります。ただ、後味が何かに似ているんですよね……」 なんでしたっけ、と記憶の中に残る味を必死で検索します。にこにことJさんが私の答えを待っているようなので、なるべく急がないといけません。 「そうだ、ジンジャーティーです。後味というか、飲み込んだあとの香りがジンジャーティーに似ているんですよ、これ」 私の答えに、Jさんは一層笑みを深くしました。なぜか、私の頭を優しく撫でます。そうですね、強く撫でられるとウィッグがずれてしまいますし。 「うーん、エリムーはいい味覚持ってるよね。キッチンに欲しいんだけど、だめかな、店長?」 「さすがにそれは困る。せっかくのロリ巨乳なんだから。あと、今はオウランだから」 店長さん。本人の前で『ロリ巨乳』という名称は使わないでください。隣のカショウさんにも「お前も大変だな」みたいな同情の眼差しで見られているじゃないですか。いや、カショウさんも大変だと思いますよ? どれだけキザなセリフを言わせても大丈夫な人だって認識されてますからね? 「んで、結局、これ何っすか?」 「あぁ、コーヒーにジンジャーシロップを入れたんだ。前にあった『名状しがたいコーヒーのようなもの』ってメニューにね、普通のコーヒーじゃないか、っていうお客さまの声が多くて、それならいっそのこと作ってみようか、って話になってさ」 「……確かに、名状しがたい味っすけど」 「だろ?」 うーん、コーヒーとは言いにくい味でしたから、確かに今度はメニュー名に偽りなし、とはなりそうです。 「注意書きをつけた方が良いかもしれません」 「うーん、確かに味は決して良いとは言えないから、説明を入れた方がいいかとは思うんだけど、ネタばらしはしたくないなぁ」 むー、と店長さんも含め4人で考え込むことしばし。 「SAN値に自信のある方はお試しください、とかはどうっすか?」 「あぁ、それならクトゥルフ繋がりでいいね」 「じゃ、注記つきで復活させよう。二人ともありがとうね」 店長さんの用事は終わったので、私とカショウは改めて階段を降りていきました。 「そういや、前もオウランと一緒に降りたことあったよな」 「あー、ありましたね」 「結局、あの後は大丈夫だったのか? なんかもう一つのバイトの関係者とか言ってたけど」 「あぁ、大丈夫ですよ。ちょっと強引な人ですけど、ヤバい人ではありませんし」 あれ、羅刹ってそもそもヤバい人認定だったような? なんだか、私の中での羅刹の位置づけがこの数ヶ月で随分と変わったような気がします。 「それならいいけど」 階段を降りたところで、反対方向に分かれて歩き出します。 まぁ、こんなことをしたところで駅に向かうのなら、途中でまた出くわすこともあるのですけどね。バイト間でも一定の距離を保つというゾンダーリングの方針です。 ……なのですが。 角を1つ曲がったところで、ぞくり、と肌が粟立ったのは、秋の気配が迫る夜の寒さのせいだけではなかったと気づいたのは、しばらく経ってからのことでした。 ![]() 「………っっ!」 心臓がバクバクと音を立てていました。じっとりと滲む汗が不快でたまりません。 暗い部屋の中、記憶を頼りにドアへと足を進めます。時計は確認していませんが、おそらく今は真夜中。佐多くんを起こさないようにそっとドアを開け、ひたひたとミニキッチンにある冷蔵庫を開けました。 取り出すのはパックで煮出した麦茶です。なくなる度に作って耐熱ボトルに入れているのですが、どうやら佐多くんも飲んでいるようなので、結構減りが早いです。いえ、別にいいのですけど。ただ、「飲んでもいいか」ぐらいは一言欲しいと思うのですが、贅沢な願いですか? それにしても、キツい夢を見たものです。 ごくり、ごくり、と麦茶を喉の奥へと押し込みながら、夢の内容を反芻すると、思わず自分の胸、いやお腹の方へ手が伸びてしまいます。 「一度ちゃんと覚醒すれば、続きを見ることはない、……ですよね?」 寝直しても、あの夢の続きを見る羽目になったら、……どうしましょう。でも、寝不足はダメなのです。 「おい」 「ぽひゃっ!?」 空になったグラスが私の手から滑り落ちました。 ……まぁ、ガッシャンとはならずに、声の主が見事キャッチしてくれたのですけど。 「さ、たくん、その、足音を殺して近づかないで欲しいのです」 「アンタだって似たようなことしてただろうが」 「ぐ、そ、それは、佐多くんを起こさないようにと思って―――」 「逆にそっちの方が起きる」 あれれ? おかしくありませんか? どうして、足音を殺した方が起きてしまうのでしょうか。 「音を殺すのは疚しいヤツが多いだろ。侵入者かと思った」 ……普通、そこまで考えないと思うのです。それとも職業柄、そんなことを考えてしまうのですか? 「で?」 「はい?」 「アンタは?」 ……悪夢を見たとでも言えば良いのでしょうか。それとも、何となく起きてしまったとか? 「えぇと、たぶん、夢見が悪かったのですよ」 曖昧な言葉で逃げようとすれば、顔を両側からがしっと掴まれてしまいました。 「アンタ、すげぇ白々しい顔になってる。自覚はあるか?」 「……ないとは言えないのです」 うぅ、何という観察眼! ミニキッチンの蛍光灯の明かりしかないというのに、私の顔色まで見破るとは! 「えーと、もう寝ますね。佐多くんも、起こしてしまってすみませんでした……」 「……」 「えと、寝直したいのです」 「……オレがこの手を放すと思ってんのか?」 「寝直さないのですか?」 「アンタの話を聞いてからだ」 私の視線があちこち彷徨いました。それと並行して佐多くんの放つオーラがどんどん険しくなっていくのを感じます。 「えぇと、見た夢の詳しい話をすれば良いのですか? その、思い出しただけで、体のある部分が痛くなるのですけど……」 「話せ」 困りました。 ……非常に困りました。 私が慌てて飛び起きたのは、とんでもない夢を見たからなのです。それを、誰かに話すなんて、それこそとんでもないです。だって、夢なのですよ? 私の深層心理が反映されちゃってるなんて判断されたくないのですよ、あんな夢。 子供の頃から無鉄砲で損ばかりしているヤンチャ坊主の佐多くんが、売り言葉に買い言葉で二階から飛び降りて腰を抜かしてしまったりとか。 ちょっと食いしん坊を発揮してしまった(何故か女教師の)私が、天ぷら4杯もおかわりしてしまったのを生徒に見つかり、黒板にデカデカと「天ぷら先生」なんて落書きされてしまったりとか。 そんな、跳ね起きた直後から腹筋を最大限酷使して何とか爆笑しないように頑張っている夢の内容を、佐多くんに話せと言うのですか? 無茶を言わないでいただきたいのです。 それに、夢の内容が明らかに「夏目漱石」に影響されているのも問題なのです。 やっぱり、あの「月がきれいですね」が、心のどこかで引っかかっているせいだと思うのです。決して、かつて千円札として君臨していた夏目漱石を愛してるわけではないと思います。私の中に守銭奴ミオさんはいない……はず、ですから。 「ミオ」 「……ちょっと、夢見が悪かっただけなのです」 「―――ミオ」 「もう夢の内容も朧気なので、問題ないのですよ」 「……ミオ」 「……うぅ」 そろり、と表情を伺えば、オーロラエ○スキュージョンどころではなく、ホーロドニィスメ○チ並の冷気を放っています。キグナス……じゃなかった、羅刹怖いです。 「その、他愛もない、単なる夢、なのですよ?」 「こんな夜中に跳び起きるほどなんだろ?」 何だか、誤解されている気がします。 悪夢は悪夢でも、怖い夢ではなく、腹筋が崩壊しそうな夢なのですよ? だって羅刹が二階から飛び降りたぐらいで腰抜かすとか、まずありえないじゃないですか。 「も、黙秘を」 「認めねぇ」 うぅ、どうしてこんなに頑ななのですか! 私、ベッドに戻って寝直したいのですよ。 「しゃべるまで返さねぇと思え」 ぐぐ、どうして私の心の中を読んだような発言をするのですか。それとも、私、顔に書いてしまっているのでしょうか。 「……えと、怒らないで聞いてくださいね」 仕方なく白旗を降り、ぼそりぼそりと夢の内容を口にします。 話が進むにつれて、般若だった顔が不動明王並に一層険しくなりました。こんな反応が予測できたから「怒らないで聞いて」と訴えたのです。 「……ということで、むしろ声を上げて笑わないように、と思って、お茶でも飲んで落ち着こうと思っただけ、なのですよ」 「ふーん」 はい、とても平坦な「ふーん」という反応をいただきました。 えぇと、すごく怖いのでそろそろ自分の部屋に戻って良いですかね? 「で、続きを見ないようにしたい、と」 「あれ、私そんなこと言いました?」 「茶ぁ飲み終わった後にな」 うーん? 確かに、あの夢の続きを見るようなことになってしまったら、それこそ笑いを堪え過ぎてお腹が筋肉痛になってしまいそうな予感があるのです。 だって、考えてもみてください。 夏目漱石繋がりで、今度は「吾輩は猫である」になってしまったらどうなるのですか? 百歩譲って猫が私だとしましょう。ビールに酔っぱらって溺れるドジっぷりですから。ワインで酔って、いえ、違いました、ちょっとしたきっかけで気が大きくなり、羅刹に話しかけた私にはピッタリです。するとアレですか。佐多くんは苦沙弥先生ですか、胃弱で偏屈でノイローゼ気味なあの先生ですか、……ってありえないです。 うぅ、私の腹筋がピンチです。まさか、こんなところで笑いを漏らすなんてありえません。だって、目の前にはとても冷えた眼差しの羅刹がいらっしゃるんですよ? 「行くか」 「ほぇ?」 必死に震える寸前の腹筋を押さえ込んでいたので、反応が遅れてしまいました。 私、また手荷物に化けました? 「えと、佐多くん?」 「夢の続き見たくねぇんだろ」 「あの、そうではなくて、ですね?」 私を持ち上げた佐多くんは、ミニキッチンの蛍光灯を消すと、スタスタと迷うことない足取りで歩き始めました。 まだ暗闇に目が慣れず、しかも他人に持ち運びされている私は、佐多くんがどの方向に向かって歩いているのか、イマイチ判断できません。 佐多くんの真意を測りかねている間に、当人はドアをガチャリと無造作に開けて、バタンと閉めて、私をベッドに転がしました。 ……って、これ、私のベッドではないですよ? 「さ、佐多くんっ!?」 「……黙って寝てろ」 「いやいやいや、私、ちゃんと自分の布団で寝ますよ?」 「悪い夢見たら、添い寝が基本だろ」 「どこの基本ですか! 幼児ではないのですよ?」 「るせぇ、寝てろ」 隣に横になった佐多くんに、むぎゅりと拘束されてしまいました。 ジタバタもがいてみても、ピクリとも動きません。男性かつ肉体労働者に勝てるはずないのですよね、よく考えなくても分かります。 幸いに、不埒に手が動く様子もないので、少しだけ体の力を緩めました。 同じマンションに住んでいて、同じ年なのに、なんだか不思議な匂いがします。男子特有の匂いなのでしょうか。それとも、体臭って一人一人違ったりするものですか? 「佐多くん」 「……」 「えと、寝てしまったのですか?」 「……」 そろり、と抜け出そうともがいてみれば、ぎゅむっと力強く抱き締められました。……訂正します。絞められました。内臓が出そうです。ぬいぐるみだったらワタが出るレベルです。 慌てて腕をタップすると、少しだけ緩めてくれました。でも、無言です。 寝てるのでしょうか。寝てないのでしょうか。 ……そして、私はこのまま寝なければならないのでしょうか。 うぅ、あんなヘンテコな夢さえ見なければ。 なんて思ったところで、後の祭りだったのです。 | |
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